今日は久々におすすめのチャプターブックを一冊紹介しようと思います。
Ghost Boysという本です。
2018年刊行の新しい本ですが、GoodReadsではレビューが1万件を超えており、平均4.37と高い評価がついています。

テーマとあらすじ
この本のテーマはずばり、人種差別(Black Lives Matter)です。
主人公はアフリカ系アメリカ人の少年。物語の冒頭で、白人警官に射殺されます。いきなり主人公死亡!びっくりの展開です。(だからタイトルがGhost Boysなのね・・・。)
その後は、主人公の死後の話と生きていたときの話が交互に展開されます。時間軸が前に行ったり後に行ったりするので、最初は少し戸惑うかもしれません。時間軸が切り替わるときには「DEAD」「ALIVE」の記載があるので、これを目安にすると、混乱せずに読み進めることができると思います。
タイトルがGhost Boysと複数形になっていることからもわかるとおり、物語のなかでは同じように白人に殺された黒人の少年たちが出てきます。また加害者やその家族の姿も描かれています。
難易度とおすすめの年齢
この本の難易度は、Lexile Measure: HL360Lとなっています。一瞬目を疑ったのですが、間違いなく360L。これがどのくらいかというと、ネイティブの小学校1年生くらいと思います。241ページそれなりにボリュームがあるチャプターブックなのですが、語彙は平易です。その分、サクサク読めます。私は2時間以上かかりましたが、長女(中1)は1時間ちょっとで読了したようです。
ただ、低学年のお子さんにはお勧めできないです。主人公の殺害シーンは比較的あっさりしていますが、仲間の幽霊の少年が自分が殺害されたときのことを振り返る際の描写が少し生生しいです。また、残された家族の悲しみもグサグサ刺さります。次女(小5)は、「悲しくてもう読めないよ。私も死んだらどうしよう」と途中で泣き出してしまいました。結局読了しましたが、豆腐メンタルな彼女にはかなり刺激の強い本だったようです。
なお、Lexile の「HL」は、語彙の割には内容が難しい本につけられています。ノンネイティブの英語学習者の多読用にちょうどいいということですね。
人種差別について考えるきっかけに
人種差別は、子供にどう教えるのがいいのか悩ましいテーマのひとつです。私が普段から心がけていることのひとつは、「差別された側だけでなく、差別した側の立場からも問題を考える」ということでした。自分と他者を比べるというのは人の心理として当然のこと。誰の心の中にも「差別」につながりうる小さな芽(unconscious bias)があるので、それを客観視できるようにすることが大切だと思っています。(ぶっちゃけ、この問題に関しては、「人種差別は許せない。私は絶対しないけどね」なんて堂々と発言する自称知識層が一番危ないと思っています)
たとえば、人種差別に関してよく取り上げられるナチス問題。一般に教育現場では、ナチスがどのような残虐な行為をしたのか、アンネ・フランクがどのような辛い人生を送ったのか等の点にフォーカスされた取り上げ方がされています。もちろんこのような点を学ぶことも大切なわけですが、同時に私は、子供たちには、「なぜヒトラーがユダヤ人を憎んだのか」「なぜドイツ人がナチスを支持したのか」という点も考えさせるようにしていました。ヒトラーも生まれたときから極悪人だったわけではないのです。動物を愛し、絵を描くことが好きな少年でした。どこにでもいる普通の少年がなぜ稀代の「悪魔」になってしまったのか。人類が同じ過ちを繰り返さないようにするためには、この点を真摯に考えることが非常に重要だと思っています。
ヒトラーの話は書き始めると長くなってしまうのでこのくらいにして、Ghost Boysの話に戻りたいと思います。この本で私が好きなのは、加害者である白人警官とその家族の様子がとても丁寧に描かれている点です。読者は最初は加害者に強いマイナス感情を持ちますが、徐々に彼が良き家庭人であり良き警察官であったことに気づかされます。彼がなぜ主人公を撃ってしまったのかは物語では詳細が書かれておらず、個人的にはそこが物足りない気がしたのですが、そのことを長女に話したところ、「わざと書いていないんだよ。読者に考えさせるためにね」と言っていました。なるほど~、そうかもしれません。
なぜ人種差別が生まれるのか。さらなる悲劇を防ぐために、私たちはなにをすべきなのか。子供たちに考える機会を与えるのに最適な本だと思いますので、紹介してみました。読みやすいので、英語学習中のお母さんでも大丈夫。おすすめです!
※なお、Ghost Boyという似た題名の児童書もありますので、買うときには間違いのないようにご注意ください。