【レポート紹介】<AIの影響 国別比較>Will robots steal our jobs? The potential impact of automation on the UK and other major economies (PwC)

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AIが社会に大きな変革をもたらし、子供たちの未来の「職業」を大きく変えていくだろうと言われています。

その影響については学者やシンクタンクなどが様々な試算をしています。一番有名なのは2013年にオックスフォード大学の研究者Frey &Osborneが書いた論文(FO論文)ですが、その後もさまざまな論文やペーパーが出ています。

今回はそのなかから、AIが与える影響について国別に試算をしているPricewaterhouseCoopers (PwC)のペーパーについて、概要を紹介してみようと思います。

 

Pwcペーパーの概要

PwCペーパーによれば、2030年代前半までに、AIまたはroboticsにより自動化される可能性がある仕事が占める割合を国別に示すと、上記のようになるそうです。アメリカでは38%の仕事が自動化リスクにさらされているのに対して、日本はわずか21%。日本はイギリスの3分の2、そしてアメリカの半分という結果です。

なぜ国によってこのような違いが生じるのでしょうか。PwCのレポートはその理由について以下のように述べていました。

・日本は英国に比べると、自動化のリスクが高い製造業に従事する労働者が多い。しかしながらそれ以外の広範な事業分野で自動化リスクが総じて低いため、相殺された結果、英国よりも自動化リスクが低くなっている。
・特に注目されるのは卸売・小売業。英国の場合、当該分野の自動化リスクは44%と試算されているが、日本では25%となっており、19%も開きがある。これは日本ではこれらの職に従事する労働者が手作業よりもマネージメント業務に時間を割く傾向があり、その分個々の労働者の訓練等が必要とされていることに起因する。
・もっとも、日本の消費者が、英米のようにセルフサービスを好むようになれば、熟練した営業担当者の必要性は低くなり、数値に変化がみられるかもしれない。

うーん、日本では「人」がやらなければならない無駄なタスクが多いということでしょうか。確かに日本の労働生産性は先進国のなかでは最低レベルと言われていますしね・・。PwCのペーパーでは以上の記述にとどまっており、これ以上の詳しい説明はなかったので、別のペーパーも見てみることにしました。

 

先行研究での分析

調べてみたところ、Arntz, M., T. Gregory and U. Zierahn (2016), “The Risk of Automation for Jobs in OECD Countries: A Comparative Analysis”という研究があり、ここでも国別のAI自動化リスクが詳細に分析されていました(以下「AGZレポート」とします)。

AGZレポートでは、日本ではAIによる自動化リスクは7%程度なのに対して、アメリカ9%、イギリス10%という数字が出ています。データへのアプローチ法がPwCのペーパ―とは違うので、数値には大きな違いが出ていますが、日本<<<英米となっている点は変わりありません。

国ごとにばらつきが出る理由について、AGZレポ―トでは、以下のように説明されていました。

As we show, parts of the differences across countries may reflect general differences in workplace organisation, differences in previous investments into automation technologies as well as differences in the education of workers across countries. (国ごとの違いは、職場組織の一般的な違い、自動化技術への既存投資の有無、労働者の受けた教育の違い等に影響を受けているものと考えられる。)

AGZレポートでは、文中で日本についての言及はありませんでしたが、掲載されているデータをみると、日本の場合、①ICT導入がすでに進んでいることと、②教育レベルが高く、小学校卒業程度の学力の人が極めて少ないことが、AIによる自動化リスクが低いという結果に影響を与えていることが読み取れました。

興味深かったのは、AGZペーパーが分析のベースとしているOECD実施の成人を対象としたスキル調査の結果。15歳の子供を対象としたPISAの結果は毎年話題になるので知っていましたが、成人のデータもあるんですね。こちらのデータをみると、日本人の読解力と数的思考力は、20数か国の参加国のなかでいずれも 1 位となっていました。色々批判されている日本の公教育ですが、OECDの調査で出てくる数字だけみれば、日本の教育制度は非常に素晴らしいということになりそうです。(もちろん、これからの時代にあった教育なのかという点はまた別途の検討が必要だと思いますが。)

 

以上、長々と書きましたが、PwCレポートとAGZレポートは、日本は他国よりAI自動化リスクが低いという結論部分については同じなのですが、その論拠とするところは微妙に異なるということが言えそうです。

AIによる自動化リスクと教育

AIによる自動化リスクは様々な要因によってその大小が決まってくるようで、上述のとおり両ぺーパーで色々違いはあるのですが、両者とも、AIによる自動化リスク低減のためには「教育」が非常に重要だという視点は共通していました。

AI時代に向けてどんな教育が必要なのかという点については、両レポートとも直接的な言及はありませんでしたが、以下、これからの教育と職業選択を考えるにあたって、参考になりそうな部分を抜粋して紹介します。(※いずれも意訳です)

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・人と人との接触が必要な仕事は自動化のリスクが低い。たとえばAIの影響を受けにくい業務分野の一つは医療。ロボットを使った遠隔手術などの技術も発達していくだろうが、完全な自動化はまだまだ先だろう。(PwCレポート)

・AI登場に伴い、なくなるタスクもあるが、あらたに生まれてくるタスクもある。AI時代に対応するためには、就業時までの教育のみならず、就業後に仕事のなかで常にスキルを積み重ねていくことが今まで以上に重要になってくるだろう。(PwCレポート)

・ creativity やsocial intelligenceを必要とする仕事は自動化のリスクが低い。前者としては、新しいコンセプトを創造する仕事や、 物を書く仕事、音楽を作る仕事などがある。後者としては、交渉や説得を伴う仕事などがある。また人の手によることが望ましいとされるタスク(看護や介護など)についても、引き続き「人」の優位性が続くのではないか。(AGZレポート)

・AIの発達により、単純なタスクは消滅していくが、新たなタスクが生まれていく。FO論文では47%の職業が消滅の危機にあるとされたが、実際には職業そのものが消滅するというよりその内容が変化していくことになる可能性の方が高いのではないか。その結果「人」に要求されるタスクは複雑かつ高度なものとなり、低スキルの労働者が職を失うことになるだろう。(AGZレポート)

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こうやってみてくると、FO論文が出てから時間が経過したものの、AIに仕事を奪われないためにはCreativityとSocial Skillがキーになってくるという点は、やはり変わっていないかなという気がします。

そしてこれらに加えて出てきているのが、「学び続ける力」の重要性。教育といっても、大学を出たからハイ終わりではないわけで、仕事をしながらいかに新しいスキルを磨き、変化しつづけるタスクに対応していくことができるかが、重要になってきそうです。「学力」ではなく「学ぶ力」をどうやって身に着けるかという点も、AI時代の生き残りのために大切なポイントになってきそうですね。

 

 

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