英語の筆記体(Cursive)の学習は必要か

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先日、ALCのメルマガに掲載されていたQ&A。

 

【Q】筆記体って必要ですか?

先日50代の上司との雑談で「筆記体ぐらい書けて、読めるようにしとけ」と言われました。彼らの時代は中学英語で習ったそうです。私は習っていませんし、日本にいて、今まで筆記体が必要と思ったことがありません。クレジットカードの署名くらいしか使い道も思い浮かびません。でも、海外ではいまだ現役なのでしょうか。やはり筆記体は知っておくべきなのでしょうか。
(女性 28歳 会社員)

【A】
特に無理して覚える必要はないと思われます。2000年から義務教育では教わらないことになりました。私の時代は1時間だけ習いました。英語の好きな人、興味のある人は自学習しています。
大学生の息子は筆記体は読めませんが、娘は読めて書けます。
私の学生時代から英語を母国語にする若い人は読めるけど書くのはブロック体だと言ってました。私の書く英文がキレイだと褒めてくれたほどです。筆記体は書くことに特化しているので、昨今では必要ないですね。日本語の行書、草書と同じようなものかもしれませんね。年配の方の文字や博物館など、訪れると筆記体を目にするぐらいでしょうか。ただ、知っていると、教養があると思われるぐらいだと思います。
(女性 50歳 塾講師)

 

エリアや学校によって異なる筆記体への取り組み

上記Q&Aをみてはじめて知りましたが、筆記体、今は中学校で教わらないんですね。個人的には筆記体で書くのは楽しかったので(なんとなくかっこいいという自己満足の世界ですが・・笑)、ちょっと残念な気もします。

さて、上記質問で問われている「海外ではどうか」という点ですが、地域や学校によってかなり異なるようです。調べてみたところ、アメリカのCommon Core(多くの州で採用されている共通カリキュラム)でも、すでに筆記体は必須ではなくなっているそうです。だから最近は、アメリカ人でも筆記体を書かない人(or書けない人)が増えているのだとか。

一方、きっちり教える学校もそれなりにあるようです。子供たちの学校は「きっちり派」。Grade 2~3のころに、ドリル(下記記事ご参照)を3~4冊やりますし、筆記体に関する学校内の昇段試験のようなものもあります(どのような試験で、どんな点にチェックが入るかは、長くなるので別記事で紹介したいと思います)。Grade 4になると筆記体の練習はせず、かわりにタイピングの特訓がはじまりますが、授業のなかでwritingに取り組むときは、ペンか万年筆を使用し、筆記体で書くのが基本のようです。鉛筆+消しゴムは使いません。

Nelson Handwriting:筆記体練習用のドリル
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筆記体必要説の根拠とは

エリアや学校によって異なる筆記体の取り扱い。調べてみると、専門家や教育者の間でも、必要派と不要派に意見が真っ二つに割れている感じがしました。そこで、筆記体を必要と考えている人たちは、筆記体にどんなメリットがあると主張しているのか、調べてみました。

専門家の主張

まず最初にご紹介するのは、「筆記体必要性」に立つ脳科学者の大学教授の意見です。

要約すると以下のとおり。(※意味を取りやすくするため意訳になっている点、ご了承ください)

生物学の観点から
・筆記体を書くには複雑かつ連続的な手の動きが必要なため、脳にいい刺激になる
・筆記体での学習は、特にディスクレシアの子どもの教育に有効なことが研究から分かっている

心理学の側面から
・筆記体の練習は結果がすぐに出るし、やればやるほど上達するので、子どもの自信につながる
・筆記体の学習には、子どもが「自己規律」(self descipline)を学ぶことができるというメリットもある

モンテッソーリでは

最近注目を集めているモンテッソーリ。モンテッソーリ・スクールではかなり早い段階から文字を教えることが多く、かつ筆記体の学習には肯定的なようです。

上記はモンテッソーリ系の団体の記事なのですが、そのなかから私が個人的に興味深いと思った点をかいつまんで紹介します。

・筆記体を書くことにより、「視覚的(触覚的)な情報に基づき手先をコントロールする」という脳の機能を鍛えることができる。

・ブロック体より筆記体を先に教えているモンテッソーリスクールもある。小さい子どもには直線や斜線で構成されるブロック体より、曲線で構成される筆記体の方が書きやすい。また、筆記体には、letter reversalを減少させるという効果もある。

・モンテッソーリ・スクールでは文字学習の導入にsandpaper letttersを使うことが多い。その後、sand trayや黒板を使ったりしてから、紙+ペンに移行する。学年がすすむと、hand writingの学習に羽ペンや毛筆を使うこともある。

上記のletter reversalというのは、おそらくですが、bとd、pとqなどの左右対称文字の混同のことではないかと思います。なるほど、確かに英語のブロック体は左右対称の文字が多いので、小さな子どもは混乱しそう。その点筆記体にすれば明確に形が違ってくるので、混乱しにくいですね。ディスクレシアの子供の教育に有効というのも、このあたりに理由がありそうです。

ちなみにモンテッソーリで使うsandpaper lettersは、下記の写真のようなものだそうです。(写真はAmazonから拝借しました)。写真ではちょっとわかりにくいのですが、文字の部分がザラザラしています。これを指でなぞり、その動きをつかんでからペンを持って書く作業に移るので、筆記体の方が書きやすいのでしょう。

筆記体不要説の根拠とは

次に筆記体不要説の記事を一本紹介してみます。

かなり長い記事なので私も斜め読みしかしていませんが、概要を紹介すると以下のとおりです。

・筆記体の方がブロック体より書くスピードが速くなるというのは事実ではない。最近の研究によれば一番速いのは両者の混合体ということがわかっている。

・筆記体がディスクレシアの子供たちの教育に有効という研究結果があることは確か。しかしながら仮にこの研究が正しいとしても、一部の限られた子供たちの話であり、学校教育において筆記体を必修とすべき根拠にはならない。

・ブロック体の方が、ペンを休めながら書くことができるので、writing skill向上に役立つという見解もある。

・本は全てブロック体で書かれているので、reading とwritingのskillを効率的に上げていくにはブロック体で書く方がいいという考え方もある。

 

・・・で、結局筆記体は必要なのか?

以上、両方の立場の記事を読んでみましたが、両説とも一理ある気がします。

どっちが正しいのか、全くわかりません( ー`дー´)キリッ

だから議論が白熱しているんですね。。。

 

以下、分からないながらも、色々な人の意見を読んでみて(+子どもの様子をみていて)、私が何となく感じたことを書いておきます。

筆記体を書くことが「脳にいい」のは確かな模様です。科学的な観点から筆記体について言及している記事の多くがその点を指摘していました。とすると、筆記体を学習して損はしない気がします。でも、「脳にいいこと」にこだわって、嫌なことを無理やりやらせてもね・・。ブロック体にメリットがあるという考えもあるようだし、「本人が楽しく筆記体が書けそうならやらせる」くらいの感覚でいいのではないかと感じました。

筆記体は子どもによって合う・合わないがあるようです。ディスクレシアのお子さんの教育に効果があるという研究は上記以外の記事でも紹介されていました。また筆記体を美しいと感じられるかどうかという感性の部分も影響してくる気がしています。長女は最近万年筆でノートをとっていますが、あの独特のスルスルとしたペン先で字を書く感覚が好きだと言っています。たぶん、アートが好きな子は、筆記体も好きになるのでしょう。

・英語圏で学校に通う/働く場合、筆記体を読めないと不自由に感じることがあるかもしれません。とはいっても、ネイティブの書く筆記体はかなり崩れた文字のことも多いし、その人なりの癖もあるので、筆記体を学習して読めるようになるかと言われると、「?」な気がします。

以上が個人的な所見です。

あと、疑問に思っているのは、英検のwritingや中学入試の英語のエッセイなどで、筆記体を使っていいのかどうかということ。採点者が読めないと困るので、英検のときにはブロック体で書くように言ったのですが、さて中学入試のときはどうすればいいのだろう・・・?これは機会があったら教育関係の方にご意見を聞いてみたいと思っています。

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