本日ご紹介するのは、Wonder。ベストセラー本として有名なので、ご存じの方も多いと思います。数か月前に読了して、レビューを書こうと思いつつ、何からどう書いていいのか考えることが多すぎて、ずっと先延ばしになっていました。
あらすじ
オーガストはふつうの男の子。ただし、顔以外は。
生まれつき顔に障害があるオーガストは、10歳ではじめて学校に通うことになった。
生徒たちはオーガストを見て悲鳴をあげ、じろじろながめ、やがて……。
難易度
Guided Reading Level V
Lexile® Measure 790L
DRA Level 50
おすすめポイント
テーマが重そうだったので、何となく読む気が起きなかったのですが、長女に読ませる前に試しに読んでみたところ、ぐいぐい話に引き込まれ、一気に読んでしまいました。ちょっと涙が出る場面もありましたが、読了感は爽快さが勝る感じです。続けて長女も読みましたが、非常に面白いとのことで、夢中になって読んでいました。
単なる「お涙頂戴もの」ではなく、くすっと笑えるところもあるし、考えさせられる部分も多いです。特筆すべきは登場人物の心理描写が優れている点です。たとえばオーガストの姉は、オーガストをいじめる子がいると立ち向かっていく勇気と優しさを備えた少女ですが、内面では両親の愛情がオーガストに重点的に注がれていることに嫉妬心を感じていたりします。作者はオーガストの姉の立場に立ってストーリーを語らせるパートを作って、彼女の複雑な心の揺れ動きを見事に表現しています。
なお、著者のR.J.Paracioは、Wonderが処女作です。本作を執筆するに至った経緯について、このように語っています。
パラシオ氏が子供たちと出かけたとき、本書の主人公・オーガストのように、頭部の骨格に障害のある少女と出くわした。3歳だった娘が少女を見て怯え、泣き出した。パラシオ氏は、少女を傷つけたくないと、娘の乗ったベビーカーを遠ざけた。すると、少女の母親は「そろそろ行かなくちゃね」と穏やかに告げ、去っていった。
パラシオ氏は、自分がどうすべきだったのかを考え、その親子がきっと繰り返し経験してきた日々を思い、母親として自分の子供たちに何をどう教えるべきだったのか……「ジロジロ見ちゃだめ」と教えることが正しいのか? その末に出した答えが「あの母親に話しかけるべきだった」「少女のことを怖がることなどひとつもないと教えてあげるべきだった」。そして、彼女は『ワンダー』を書き始めた。あの日、母親として自分の子供に教えてやれなかったことを伝えるために。(ダビンチニュース)
「障がい」はかわいそうなもの?
この本の感想を長女に聞いたところ、「オーガストはかわいそう。でもよく頑張ったね。」というものでした。この感想を聞いて、正直、とても複雑な気持ちになりました。
私の友人に、生まれつき足が不自由で、車いすで生活しているアメリカ人の男性がいます。彼と知り合ったのは、私がアメリカに留学していた10数年前のこと。とにかくアクティブで明るい性格の人で、パーティーの幹事も積極的に務め、友人も多く、趣味はなんとスカイダイビング。あの飛行機から飛び降りるやつです。専門は都市計画で、今もアメリカ中を飛び回って仕事をしています。
彼によると、「障がいが僕の人生をcolorfulにした」とのこと。colorfulという表現に当初はびっくりしたんですが、彼のことを知るうちに、彼がcolorfulという表現を使った意味が分かるようになりました。彼は、普通の人にはない特異な経験をたくさんしている分、洞察力と観察眼に優れ、思慮深く、そして人とは違った立場で斬新な意見を出すことができるのです。彼と知り合った当初は、「車いす?なんだかかわいそうだな。何か私がお手伝いできることがあるかな?」と思いましたが、私の手助けが必要な場面など、実際には皆無でした。むしろ私が助けられ、教えられることがたくさんありました。「かわいそうな人」だったのは、彼ではなく、彼をかわいそうとしか見ることができなかった浅薄で傲慢な私自身だったのです。
長女はこの本を主人公オーガストの立場で読んだようですが、私はどちらかというと過去の自分に重ね合わせながらオーガストのクラスメイトの立場で読みました。学校に入学しオーガストは大きく成長しますが、それと同時に、クラスメイトたちも、オーガストからたくさんのことを学び、人として成長していきます。そして「同情心」や「嫌悪感」は、「友情」や「敬意の念」へと徐々に昇華していきます。
私たちはどうしても「障がい者」と呼ばれる人たちを「かわいそう」なものとして見てしまうところがあります。でも実際には、「健常者」と「障がい者」の境目って、すごくあいまいなんですよね。それに「健常者」だって、年を取れば、誰かの助けが必要になるわけです。障がいと一口に言っても内容や程度は様々なので、一概には言えない部分もありますが、見た目で判断したり、単に「かわいそう」と一線を引いて接するのではなく、内面的なものに目を向けて、人対人として向き合うことができれば、互いにもっとハッピーになれるのかなと感じています。
・・・と、こんなことを長女に伝えたかったのですが、難しいですね。ホーキング博士の例なども出して話をしてみましたが、長女には実際にそういう友人がいるわけではないので、ピンとこない様子でした。彼女はやっぱり、「オーガストみたいな病気で困っている人はどのくらいいるの?」「助けてあげる方法はないの?」「かわいそうすぎるよ」と繰り返していました。こういう優しさやまっすぐな心も大切だとは思うのですが・・・う~ん、難しいですね。
最近、「異文化への寛容性」の大切さが強調されることが多くありますが、本当に必要なのは、「他者の多様性への寛容性」なのではないかと思っています。インターでの生活を通じて「異文化への寛容性」は十分に身につけた長女ですが、どうすればそれを「他者の多様性への寛容性」へと広げていけるか。Wonderの感想を長女と話し合いながらぼんやり考えてみましたが、まだ答えは見つかっていません。
さて、この種の問題を考えるときによく出てくるのが、下記TEDの動画です。「感動ポルノ(Inspiration porn)」という言葉をはじめてつかったステラ・ヤングさんが出演したときのものです。非常に視聴者数の多い動画なので見たことがある方も多いと思いますが、もしまだの方がいたらぜひスクリプトだけでも一読してみてください。ちなみにステラさんは、この収録の約半年後、病気で亡くなれています。ポルノという言葉が強烈なのでまだ長女には見せていないのですが、そのうち見せたいなと思っています。
関連書籍
左の一冊はWonderの本編です。
中央の一冊はWonderの続編です。いじめっ子Julian、オーガスタの旧友Christopher、クラスメイトの女子Charlotteの3つの立場からストーリーが語られるとのこと。まだ読んでいないのですが、評判はなかなかいいようです。夏休みに読んでみようかな。
右の一冊はWonderの絵本。こちらは次女も読みました。5分くらいでさっと読めてしまうくらいの分量で、ストーリーもあってないような感じですが、かなり印象の強い絵本らしく、次女は読んだあとに「どうしてこの子はordinaryじゃないの」「しょうがいって何なの」などと、色々質問をしてきました。障がいについて考えるきっかけになるいい絵本だと思います。