教育に関する雑考

「英語学習2000時間」説の根拠とは

英語学習について情報収集をしているとよく目に入ってくるのが、「2000時間」という数字。

「2000時間を超えると加速度的に習熟度があがる」「2000時間勉強すれば英語をマスターできる」「2000時間インプットすれば英語を話せるようになる」などなど、いろいろなバリエーションがありますが、特徴は、どれも「・・・といわれている」で終わるという点。

「いわれているって、一体誰が何て言ってるの?」と疑問に思ったので、ちょっと調べてみることにしました。

 

根拠を明示している記事はどのくらいあるか?

さて、実際に調べてみると、2000時間の根拠を明示している記事は皆無に近い状況でした。個人の経験談的なものは散見されましたが、実証研究に基づき論理的にその根拠を説明しているものはゼロでした。一個人のブログなら分かるのですが、英語教育を売りにしている会社などが、何ら根拠も示さずに、「一般にホニャララになるには、2000時間必要といわれているので~」と、持論を展開。うーん。

・・・と、出だしからちょっと愚痴っぽくなってしまいましたが、いろいろ調べてみると、同じような点に疑問を持った人がすでに調べてくださっており、根拠として考えられるのは、アメリカ国務省のThe Foreign Service Institute (FSI)という機関が作成したリストではないかという話がありました。

 

FSIリストは根拠になるのか?

このFSIというのは、外交関連の職務につくアメリカ政府の職員を対象とする教育機関だとか。かなり前に作られたリストのようで、すでに国務省のサイトには該当するページが見当たらなかったのですが、このリストを引用しているサイトがありましたので、リンクを貼っておきます。

Language Learning Difficulty for English Speakers

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このリストでは、英語を母語とする人が習得にかかる時間別に、62言語を3つのカテゴリ(+α)に分類しています。日本語は、一番習得が困難な「カテゴリ3 」(2200時間)に分類されており、さらに、*がついていて、そこには「Languages which are exceptionally difficult for native English speakers(同カテゴリ内の他言語より習得が困難)」との注記がついています。すなわち、日本語は、62言語のなかで、英語話者にとっては一番習得が困難な言語と位置付けられているのです。

※ちなみに、引用サイトによっては、5つのカテゴリに分けているものもありました。どちらのリストが正しいのかはよくわかりませんでしたが、そちらのリストでも日本語は習得まで2200時間が必要な最難関カテゴリに分類されていました。

どうやら「英語習得2000時間」説の根拠は、上記FSIのリスト(要2200時間)をベースに、「日本語を母語とする人が英語を習得する場合も、英語を母語とする人が日本語を習得するのと同じくらいの時間がかかるに違いない!」というところにある模様です。

習得に時間がかかるというのは、2つの言語にそれだけ共通点が少ないということなので、「逆でも同じくらいの時間がかかるだろう」という発想は、まあ分からないわけではありません。ただ、上記FSIリストは、上記リンク先記事の説明によれば、すでに第二、第三言語をマスターしているような外交関連業務に従事する職員(平均年齢40歳)が、専門の教師のもとでカリキュラムに沿って集中的に教育を受けた場合に、speakingとreadingで”General Professional Proficiency”に到達するために要する時間だそうです。

FSIリストは、大人の英語学習に必要な時間を考慮する際には参考になる部分があるかもしれませんが・・・日本語を母語とする子どもの英語教育の場合には、前提条件も達成目標も全く異なるので、参考にならないですね。

 

言語学者の論文や著作ではどのように記載されているか?

それでは、言語学者の方々は、子どもの英語習得に必要な時間についてどう考えているのでしょう。少し調べてみましたが、定性的分析に終始している論文ばかりで、残念ながら決め手になるようなものは見当たりませんでした。

そのような中、参考になったのは、バイリンガル教育の第一人者と言われる中島和子トロント大名誉教授の著作「完全改訂版 バイリンガル教育の方法」に記載されていたトロント補習校での調査結果(同書166ページ以下)でした。

(ちなみにこの本、かなりおすすめです。まだ精読が完了していないので、書評はまた追って!)

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上記調査結果を見ると、英語圏の現地校でネイティブから集中的に英語のシャワーを浴びていても、英語の上達状況にはかなりの個人差があることが分かります。中島教授いわく、基本的な会話力の習得にかかる時間は、個人差が激しく、2~5年程度とのこと。

ざっくりした計算になりますが、仮に1日5時間&年間授業日数200日英語に触れるとして、2年ならば2000時間、5年なら5000時間くらいということになるでしょうか(実際には公立の場合、年間授業時間は1000時間に満たないようですが、学校外で英語にふれる時間もあるでしょうから、多めに見積もりました)。ちょうどこの2年が2000時間相当と考えれば、数字的には合うのかなという気がします。要するに、順調にいけば、だいたい2000時間くらいで、基礎的な会話力は習得できるということですね。

ただ、英語圏の現地校でネイティブに囲まれて集中的に英語を吸収している子供たちでもこれだけの差があるのですから、日本で義務教育を受けているお子さんの英語教育ということになれば、ばらつきの幅はより大きくなるのではないかと思います。また、英語学習は底に穴の開いたコップに水を注ぐようなものですから、ゆっくり注いだ場合はその分効率性が下がり、より多くの水が必要になるのではないかと思います。また、実際に教室で集中して授業を受けている場合と、ただ単に音源の「かけ流し」をしている場合では、濃度が全く違うようにも思います。よって、教育の内容にもよりますが、日本で子どもに対して英語教育をする場合、2000時間よりも更に時間がかかる可能性が高いのではという気がします。

このことからすると、日本で子供の英語教育を考える場合、「2000時間英語をインプットすれば・・・」の類は、あまり真に受けない方がよいのではと思いました。もちろん2000時間もやれば何等かの効果は出てくるでしょうから、大人が学習管理のために2000時間をひとつのKPI(目標達成度を測る指標)として設定するのは方法論としてはアリだと思います。ただ、「2000時間やればうちの子も英語が話せるようになるはず!」などと子どもに期待するのはやめた方がよいかもしれません。


ちなみに我が家も2人の子供がいますが、読み書きはともかく、発話については、個人差が非常に大きいことを実感しています。いつの間にか英語で流ちょうにコミュニケーションが取れるようになった長女と、まだまだごく簡単な受け答えしかできない次女。同じような教育を同じペースで受けていても、全く違います。スピーキングは話さなければ上達しないので、本人の性格による影響が大きいと思います。

次女のスピーキングについては色々悩んでいるところなので、また改めて記事を書こうと思っています。

「英語学習2000時間」説の根拠とは” に2件のコメントがあります

  1. 3人の子どもがいるワーキングママです。
    興味深い記事をありがとうございました。
    日々の生活に終われ、知育も英語教育も何も取り組めてはいませんが、日本語って他文化と違うのだなと感じました。
    英語習得にはかなりの努力が必要ですね。
    ありがとうございました。

    1. こんにちは!コメントありがとうございます。
      いやほんとうに、英語習得には時間がかかりますね・・・。
      FSIリストをみて、周囲のヨーロッパ人の子供たちの英語習得が速いのにもなんだか納得してしまいました(汗)
      我が家もまだまだ先は長そうです・・・

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