教育に関する雑考

おうち英語の失敗談 身近な実例より

むかしむかし、あるところに、とても教育熱心なお母さんがいました。

お母さんはとても頭の良い人で、勉強をするのも教えるのも得意でしたが、ひとつだけ苦手なものがありました。そう、英語です。お母さんは学校での英語のテストの点数は抜群によく、受験には苦労しませんでしたが、英会話ができませんでした。

「これからは国際化の時代、英語はますます大切になるわ。」
「うちの子ども達には英語を話せるようになってほしい・・・でもどうすれば?」

そんなある日、家に、ブ○タニカという英語教材の販売員がやってきました。いわゆる訪問販売(押し売りともいう)です。

ブリ○ニカの英語教材はとても高いので、お母さんは、最初は全く買うつもりはありませんでした。今後の参考のために話くらいは聞いてみようという感じだったのです。気になるお値段は、英会話教室の料金とセットで80万円くらい。「高い!」というお母さんを、販売員さんは言葉巧みに説得します。「お子様はお二人、教材はひとつでいいですから、お得ですね」「まとめて買うと高く感じますが、1日あたりの金額に直せば○○○円・・・ふたりで割れば、○○○円です。いかがでしょう?」おそるべしブリタ○カ商法!!話を聞き終わるころには、お母さんは、子ども達のために、この馬鹿高い英語教材を買うことを固く決意していました。高い出費?いやいや、これで英語が話せるようになるなら、安いかもしれません。というわけで、仕事から帰宅したお父さんを説得して、購入を決めました。

やがて家に教材が届きました。たくさんの絵本と、箱にぎっしり入ったカセットテープ、それから色々なゲーム。木の箱に入った豪華な紙芝居もありました。それからは、毎晩、就寝のときには、子ども達に英語のカセットテープを聞かせるのが日課になりました。カセットテープは色々な種類がありましたが、子ども達のお気に入りは「モクモク村のけんちゃん」「マコガコの冒険」でした。カセットテープがついていない本の類は、お母さんにはあまり使いこなせず、そのうちホコリをかぶるようになりました。お母さんは自分のつたない発音で本を読んであげるのはいやだったのです。でも、英会話教室に通わせたことも影響してか、子ども達は徐々に英語で簡単なコミュニケーションをとれるようになってきました。発音もなかなかきれいだったので、お母さんは子どもに英語を習わせてよかったなと思いました。

しかしながら、そうこうしているうちに、上の子どもが小学校4年生になり、中学受験の塾に通うようになると、家で英語のカセットテープをかけることはなくなりました。このころにはお母さんの第一目標は、子ども達を難関私立中に入れることになっていたのです。そして3年経ち、上の子の受験がようやく終わりました。上の子は無事に志望校に進学が決まりましたが、小さいころに力を入れていた英語は、全くやっていない子ども達とさほど変わらないレベルになっていました。中学校に入学した後、はじめての成績表をみて、想像以上に英語の成績が悪かったので、お母さんは失望しました。そして、「ああ、小さいころに必死で英語をやらせた意味なんて全くなかったんだわ・・・」と思いました。

ところが不思議なことに、上の子は、高校・大学を出て社会人になったあと、アメリカの大学院に留学し、帰国してからは、英語でも仕事をこなすようになりました。あるとき、お母さんは大きくなった子どもに恐る恐る尋ねました。「子どものころに買った英語教材・・・あれってあなたの役に立った?中学受験で、全部忘れちゃったわよね?それとも、小さいころに英語の音を聞かせた効果はあった?」

子どもは笑って答えました。「もちろん役に立ったよ!小さいころからうちで英語を聞いてたから、英語への抵抗感はなかったし、英語が大好きになったよ。モクモク村のけんちゃん、本当に何度も聞いたよね。そうそう、日本人はリスニングに苦労するって言うけどね、私はほとんど苦労しなかったの。たぶんお父さんとお母さんがブリタ二○を買ってくれたおかげだよね。ありがとう!」

お母さんは、子どもの答えを聞いて、微笑みました。「ああ、あの投資は無駄だったと思っていたけど、そうではなかったのね。やっぱり小さいうちから英語の音を聞かせたのは正解だったわ。本当によかった!」

【お わ り】


以上、身近にあった、おうち英語の失敗談でした。

「あれあれ、どこが失敗談なの?やっぱり意味があったんでしょ?」と思われる方もいるかもしれません。

実は、上のお話に出てくる「子ども」とは、私のことです。タイトルには「身近な実例」と書きましたが、本当は自分の経験談です(笑)

正直いうと、私は、幼児期の中途半端な英語かけ流しが、その後の自分の英語力向上に役立ったとは思っていません。中学受験のための勉強で英語はさっぱり忘れ、何も残りませんでした。ちなみに英語のリスニングに他の人ほどは苦労しなかったことは確かなんですけど、これは高校~大学時代に洋楽にはまって、浴びるように洋楽を聞いていたことが大きいと思います。でも、母を悲しませたくなかったから、母には「すごく役に立ったよ」と嘘をついたのです。

「おうち英語」を最近の流行のように捉える趣もあるようですが、この種の教育法、実は30年以上前からあったんですよね。ネットの普及によりリソースが大幅に増加し、低コストで高品質の英語教育を受けられるようになったという点は昔と違います。でも、①絵本+②かけながし+③英会話教室でアウトプットという基本的枠組みは、実はずいぶん昔から変わらないのです。

おうち英語での早期英語教育を受けた身として、自分の経験から言えることは、以下の点です。

・中途半端な英語力のまま中学受験体制に突入すると、英語はきれいに頭から抜け落ち、何も残らない。(ほんとうに何も残りません。私が保証します!笑)
中学受験を考えている場合、英語教育との両立は困難。特に普通入試で御三家以上のレベルの学校を狙うなら、英語をやっている時間など皆無。どちらかを諦めるべし。


さて、話は戻りますが、30年前を振り返ってみると、母がどれだけ、私と弟の教育のことを真剣に考え、私たちのために時間と費用をかけてくれたのかがよくわかり、感謝の気持ちでいっぱいになります。ブリタニカの英語教材、ぶっちゃけ役に立たなかったけど・・・でも、母や弟と一緒に、ラジカセに耳を傾けた日を思い出すと、なんだかホンワリあたたかい気分になるのです。それと同時に、自分も母親になり、あのとき母が何を考えていたのか手に取るように分かるようになり、自分と母の思考回路の類似性に驚いたりもしています。

母と私のおうち英語は、英語教育という面では失敗だったけど、何かもっと大切なものを私に残してくれた気がしています。だから私も、可能な限りの時間と費用をかけて、自分の娘たちによい教育を受けさせてあげなければならないと思っています。母が私にそうしてくれたように。

20~30年後、私も自分の子ども達に聞いているかもしれません。「ねえ、小さいころに無理やり海外に連れていって英語の学校に放り込んだけど、どうだった?英語の勉強と日本語の勉強、小さいあなたには大変だったよね。あれって役に立ったのかしら?」 そのとき子どもからはどんな答えが返ってくるのかな。ちょっと楽しみです。

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