日本の「エリート教育」のROI

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ちょっと前になりますが、以下のような記事を目にしました。
日本のエリート教育を牛耳るたった2つの塾
「学歴」はもう古い!?「塾歴社会」化する日本(東洋経済オンライン)

学歴よりも塾歴というのもびっくりでしたが、中学受験が終わった瞬間から東大合格に向けてスタートを切る子ども達がいることも驚きでした。よりレベルの高い中高一貫校に入り、東大を目指す。仮に小4から中学受験の勉強をはじめて現役で東大合格を勝ち取ったとしても、9年がかりの長期計画です。

一つの目標に向かって走り続ける子ども達。正直、すごいなと思います。ただ、10代の貴重な時間の大半を、「日本の有名大学合格」を目指して受験勉強に費やすことが、いいのかどうなのか。私は大学受験というものを経験していないので、日本の大学受験がどのくらい大変なことなのか、また大学受験のための勉強がどの程度その後の人生に役立つのか、よくわからない部分も多く、色々コメントすることができる立場ではないのかもしれませんが、私がひっかかっていることをまとめると、以下の4点になるのかなと思います。


 

(1)「有名大卒」が役立つのは新卒時の就職活動まで

大学名で「ほう、なかなかやるね」と評価してもらえるのは、新卒での就職活動までだと思います。社会人になれば卒業した大学のネームバリューが役立つ場面は極端に少なくなります。同じ大学の卒業生ということで上司や取引先が親近感を持ってくれたり、共通の話題で盛り上がったりすることはありますが、役立つのはそれくらいではないかと。
それでも、終身雇用が大前提の一昔前なら、新卒時に大企業への入社を勝ち取るために有名大卒の肩書を得るメリットはあったと思います。けれども今は、グローバル規模で人材の流動化が加速度的に進行しており、有名大を卒業して一流企業に入ったから一生安泰という時代ではないんですよね。
医学部や薬学部など、大学卒業時に国家資格を取得し専門職となる場合には、頑張って有名大に行く意味はあるかもしれません。東大卒がデフォルトの一部官庁に入るのが目標なら東大卒の肩書は強みになるでしょう。でもそれ以外の場合、すなわち大学を卒業して一般企業に普通に就職する場合には、有名大卒の看板が役立つのは新卒時のみのように思います。

(2)世界レベルでみると日本の有名大学のランクは急落している

大学ランキングには色々な種類がありますが、どのランキングでも、日本の大学の順位はここ数年の間に急落しています。これはトップの東大でもそうです。
最近自分が留学していたアメリカの大学院の現状を聞いて驚いたのですが、いまや中国人留学生の人数が日本人留学生の10倍に達しているのだそうです。私が留学していた10年前は日本人の方が多かったはずですから、恐ろしいほどに急激な変化です。今後は米国留学経験のある中国人が本国に戻り英語の論文をどんどん発表していくと思われます。大学ランキングはその大学の研究者たちがpublishした英語での論文数を考慮するものが多いので、おそらく次の10年で、中国の大学がどんどん日本の大学を抜いていくという現象が起きると思われます。
余談ですがノーベル賞受賞者が出るたびに「まだまだ日本もすごい」という雰囲気になりますが、これもどうなのかなあと。ノーベル賞って過去の業績に対する評価なんですよね。しかも相当前の。日本人はどうも自国を過大評価しがちで現実を見ていないように思います。

(3)有名大学も大学院から入るのなら意外とラク

日本のどこの有名大学も、大学院から入るのは意外にラクだったりします。というのも、大学院から入る場合には、ペーパーテストで合否が決まるわけではなく、大学の成績、卒論の内容とその評価、語学力、研究の専門性など、様々な要素で合否が決まるからです。ざっくりした感覚ですが、東大大学院入学は、早慶一橋クラスの大学に在籍しているのであれば十分射程圏内、MARCHクラスでもチャンスはあります。早慶の大学院なら日東駒専クラスの大学からの入学者も散見されます。(※ただしこのあたりは大学や専門によっても違うかもしれません。)
日本社会のなかでは院だけ東大でも「東大出身」と扱ってもらうことはできず、逆に「学歴ロンダリング」などと揶揄されてしまいますが、世界に出れば院だけ東大も、同じ「東大出身」なんですよね。

(4)日本の大学の教育の質は低い

これは大学によっても違うと思うので、言いきっていいかどうか迷うところですが、私が通った日本の大学とアメリカの大学院を比べると、同じ専門分野なのに、天と地ほども教育レベルが違いました。教師の質、授業の内容の濃さ、宿題の量、学生の出席率・・・どれも全く違う。まあ学費も5倍くらい違いましたけどね(笑)
日本の大学で学んで役立ったこと、正直、思い出せないんですよね。面白い講義はいくつかあった気がするけど、得るものはあったかな。ぶっちゃけ大学に行っても行かなくてもあまり変わらなかったような気がします。


以上、色々考えていくと、日本の大学受験、9年もかけて挑む意味があるのかなと思ってしまいます。

我が家は教育方針を考えるときには、ROI(Return on Investment:投資対効果)を重視するようにしています。ここでのInvestmentは金銭だけではありません。時間も含みます。9年越しで東大などの日本の有名大学を目指すという「エリート教育」は、どうもROIが低すぎるように思え、投資をする気分になれないのが正直なところです。うちの子ども達がものすごく優秀で「東大理Ⅲも射程圏内よ~オホホ~」という感じなら投資しちゃうかもしれませんが、どうもそんな感じではなさそうですし(笑)

うちの長女もすでに8歳。冒頭の記事に出て来るような「東大一直線」の子ども達は、ゴールに向けてもうスタートを切っているのかもしれません。もちろん学歴は、ないよりあるに越したことはないと思うし、大学合格という目標をもって頑張るのはいいことなんですが、全てを犠牲にして全力投球で臨むようなものなのかなあ。もっとROIが高い、よい投資先はないのかな~と、模索する日々です。

 

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