少し前になりますが、今後10~20年程度でなくなる職業について分析したオックスフォード大学の研究者の論文が巷で話題になっていました。子どもの教育を考えるにあたっても参考になりそうな記述が色々あったので、紹介してみたいと思います。
Frey & Osborne論文(英語)と日本語の解説
英語で書かれたもとの論文はこちら。
分量が多く、途中で複雑な計算式なども出て来るので、きちんと理解するのは統計などの専門的知識がないときついと思います。私には途中の分析手法のところは正直チンプンカンプンでした!それ以外の部分は、比較的分かりやすいと思います。
興味深いのは最後のAppendix。702の職業が機械化リスクの低い順に並べられていますので、ご自身の職業がどのように評価されているのかチェックしてみると面白いです。
この論文についての日本語の解説にもいくつか目を通しましたが、以下のものが分かりやすかったです。
オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」702業種を徹底調査してわかった(現代ビジネス)
ちなみにこの論文はオックスフォード大学の研究者が書いたものですが、別にオックスフォード大学が組織として認定したわけではありません。よって現代ビジネスの記事のタイトルはミスリーディングだと思います。ただ、記事の中身を読むと、著者へのインタビューを踏まえて論文の主旨が分かりやすく解説されていますので、「英語で原典を読むのはちょっと・・・」という方は、こちらを読まれるといいのではと思います。
Frey & Osborne論文の概要
この論文では、702の職業について、コンピューター技術の進歩によって近い将来に自動化される可能性(リスク)を分析しています。最後のまとめの部分(44頁以下)を要約すると、以下の通りです。
・運送や物流に関連する仕事は大半が消滅する。
・サービス業もかなりの部分が消滅する。
・今後労働市場で生き残っていくためには、高いcreativityとsocial skillが必要。
結論部分だけを読むと、「ま~、そうかもね」という感じですが、この論文のすごいところは、702もの職業について各職業に要求される能力をベースに将来自動化されるリスクを算出している点です。単なる定性的分析ではなく、膨大なデータに基づく定量的分析により、半分近くの人が、近い将来失職する可能性が高いという結果を導き出しているわけです。
Frey & Osborne論文から考える今後の教育の在り方
子どもの教育という面からみたときに私が気になったのは、最後の「今後労働市場で生き残っていくためには、高いcreativityとsocial skillが必要」という点です。この論文では、creativityとsocial skillを磨くにはどうしたらいいかという点までは書いていませんが、論文の中に、ヒントになりそうな記述が色々ありました。
creativity
まずcreativity。新しいアイデアやものを作り上げる能力ですね。
著者によると、なにか新しいアイデアをcreateするにあたっては、複数の一般的なアイデアを、一般的ではない方法で組み合わせることになり、それには膨大な知識の集積が必要とのこと。このため、現在、コンピューターにcreativeなことをさせようという研究も進んでいるようなのですが、creativeといえるためには、新規性に加え、それが価値あるもの(valuable)であることが必要なので、コンピューターでの自動化は非常に難しいのだそうです。
この論文を読むまで、creativityというと、0から新しくて価値のあるものを作り上げることだと勝手に思っていましたが、実は違うんですね。優れた思い付きができるかどうかは、そのきっかけになるような知識の引き出しをいくつ自分の中に持っているかで決まるようです。なので、時代や文化を超え、たくさんの優れたartifactsに触れる経験を作ってあげることが、子どものcreativityを伸ばすために親ができることなのかなと思いました。
social skill
この論文でいうsocial skillというのは、他人と交渉したり、他人を説得したりする能力、いわゆるコミュニケーション能力をいいます。
この点、私自身も海外で学んで嫌というほど実感したことですが、日本人って、ディベートに弱いんですよね。語学のハードルもあるとは思うんですが、それとは別次元で、自分の意見を理論立てて人に説明し、反論に再反論し、周囲を説得することが、不得手というか慣れていないというか、とにかくダメなんです。これは、人の意見を批判するのは人格攻撃のようで嫌、という日本人独特の価値観が影響しているように思います。
このため、我が家では、例えば「これがほしい」というリクエストが子どもからあったときには、なぜそれが必要なのか、それを買うことで生じるpros and consについてどう考えるか、子どもと議論をするようにしたり、ニュースをみてどう思うか互いに意見を言うなどの機会を設けるようにしています。ただ、親子だと対等な議論にならない部分があるので、家庭教育のみでsocial skillを磨くのは正直難しいなと思っています。
そしてもうひとつ、上記social skillとも関係しますが、人を説得するには、単に抽象的な根拠を述べるのではなく、数値に基づき根拠を示すことがますます重要になり、そのためには統計学やコンピューター・サイエンスの基礎知識が必要になってくるのではという気がしています。この論文の存在自体が、そのことを顕著に表しているように思います。というのも、この論文、テーマ自体はどちらかといえば社会学の分野に属するように思いますが、書いているのは社会学者ではなくコンピューター・サイエンスの専門家なんですよね。こうやって具体的なデータで論拠を述べられると、普通の社会学者がこれに反論するのはもう無理です。こういう事象がおそらく一般社会でも増えてきて、「わたし文系だから、数字はわかんな~い」は、通用しなくなってくる気がします。よって数学の力をきっちりつけることも必要だと考えています。
以上、「10年後に消える職業」についての論文の紹介でした。